レッツ・ダンス

優がアキラ兄の使い吉村に連れてこられた場所は、スペースランナー社のアイスリンクだった。しかも優専用。
「ここは更衣室です」
スケートシューズと練習用の服が並んでいた。
「服は動きやすそうなのを適当に選んでおきました。欲しい服があれば、そこに書いておいてください」
吉村の視線の先に大きなホワイトボードがあった。
「シューズの修理や調整も書いておいていただければ、対処しておきます」
「分かった。じゃあ、もう滑ってもいい？」
「慌てないでください。隣の部屋の説明が終わったら、私は帰ります」
「そしたら、滑っていい？」
優の嬉しそうな顔を見ながら、吉村は微笑みを浮かべて頷いた。

サッカー男子日本代表、敵地フランス。

ホームゲームで本気バリバリのフランスに勝ちました！

初勝利です。

涙出てきます。

川島、すごかった。

それにこたえた長友、かっけー！

酒井もいい守りしてた。

みんな、がんばった。

素晴らしいプレイ、ゲーム、ありがとー！

ブラジル戦もがんばれー！

俺は吉村さんの自動車に乗って、思いっきり滑れるという場所に向かった。自動車で連れて行ってくれるのは今回だけで、次からは自転車で行けるように道を覚えるように言われた。しばらく走り、三階建ての大きな建物の前で自動車はとまった。そこには、『株式会社スペース・ランナー』と書かれていた。吉村さんからカードをもらった。受付にカードを見せて、俺と吉村さんは地下一階へ降りた。カードをかざすとドアが開き、真っ黒な空間が広がっていた。入ると、自動で照明がつき、そこにはまぶしく光るスケート・リンクがあった。
「すげー！」
「すぐに滑りたいでしょうが、まずは説明させてください」
俺は頷いた。
「ここはスペース・ランナー社の専用スケート・リンクです。スペース・ランナー社はスケートクラブを新設し、白雪さんにはクラブに入っていただきます」
急にそんなことを言われて、俺はまごついた。
「いくら払うの？」

本日、男子サッカーA代表がイラクと2014年ワールドカップアジア最終予選第4戦を戦います。

頑張れ、日本！

今日も出てこい、ハーフナー・マイク！
今日こそは下に叩きつけるヘディングだ！

夕食終わったら、試合見ながらTwitterで呟く予定。

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スケート場のレストランで話をしている優とアヤメ。
「監督さん家の子供になっちゃえばよかったのに」
「ならなくてよかったんだよ」
「？」
「週末になると優花さんにデートに誘われた。俺にスケートの練習をさせたかったのだろうけれど、俺が優花さんにスケートを教えて、監督ん家で夕食をご馳走になった。小学校を卒業するころ、それまでずっとできなかった赤ちゃんを授かった。毎週スケートで運動してたのが良かったのかもしれないってさ。優花さんは実家に帰り、俺は中学に入学した」
「そっか。やっぱ自分が産んだ子の方が可愛いよね」
「優花さんはそんな人じゃないよ。赤ちゃんができたのが初めてだったから安心のために実家に行っただけ。ご両親にとっても待望の初孫だし。もし俺が監督ん家の子供になってたら、優花さんは実家に帰らなかっただろう。つわりもひどかったらしいし、大変なことになってたと思うよ。優花さんが戻ってきてからは、月一で夕食をご馳走してもらってる」
「結構いい関係ね。そういえば、赤ちゃんは男の子？女の子？」
「男の子」
「名前は？」
「優花さんは自分の名前の一文字をとって『優一』がいいといって、監督も自分の名前から一文字をとって『竜馬』という名前にしたかったんだってさ。坂本竜馬が好きってのもあったらしい。で、優花さんが二つの名前から『ゆうま』にした。優しいの優に真実の真」
「優花さんらし～。監督の竜の字、入ってない。監督、可哀想～」
「でも、音感的に竜馬に近いって監督喜んでたよ。監督は優花さんにベタ惚れだしね」
「そういえば、サッカー少年達は？」
「ヒデ、ウッチー、ゴンは俺と同じ中学に入って、うちのサッカー部は今や全国レベルだよ」
「すごーい！」
「ああ。あいつら、すごいよ。あんなすごい奴等と一緒にサッカーできたのは俺の誇りだ」
目を輝かせている優をアヤメは羨ましそうに見つめた。優の目がいっそう輝きを放ち、
「あれは、中学の入学式の帰りだった」